23 Feb 2013

デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する(著:吉川洋)から展開し得る仮説

本書で展開されているデフレの原因は、ゼロ金利下で緩和が不十分とされる日銀の金融政策(いわゆるリフレ派)でも生産年齢人口減少(いわゆる「デフレの正体」)でもなく、雇用を維持して賃金を抑制する世界的には特殊な雇用形態を生み出した労働市場の失敗と、企業に対するデフレ・バイアスすなわちプロセスイノベーションにのみ特化しプロダクトイノベーションを怠った、というのは各種要素の影響経路を考えた時には合理的な説明であると考えます。

惜しむらくは、賃金抑制メカニズムのところで援用しているリプシーとトービンのモデルで、なぜ日本でのみアップサイドでの賃金の伸びが控えめで、ダウンサイドでの賃金の落ち込みが大きいのか、というところまで論を展開していただけるとよかったです。さらに、企業が陥ったデフレ・バイアスに対してガバナンスを働かせるにも、よちよち歩きの資本市場は間に合わず、金融緩和でじゃぶじゃぶの銀行ではもはやいうことを効かせられず、という私が仕事をしている上で感じている直感を、実証するところまで分析を踏み込んx`でいただければより我が意を得たりというところまで納得できたかと思います。

いずれにせよ、ソフトカバーでしたが、極めてまともな経済学の本でした。他の議論を訴える方々の回答を期待したいところです。




以下は個人的見解ですが、この本の結論をさらに展開させると、未検証ですが以下のような仮説が考えられると思います。

  • 賃金の上昇下落の非対称性は、皆で痛みを分かち合う方が人員削減よりよい、という社会通念によるものである。(雇用に対する社会通念)

  • そのような状況下でも大多数の従業員が退出オプションを事実上行使できないため賃金の下方硬直性が働かない。(労働市場の非効率)

  • だがそのような一律な人件費抑制を続ける企業は、ハイパフォーマーも等しく罰せられるから人材モラール低下につながり、大組織であることと相まってプロダクト・イノベーションが起きなくなり、結果、単価下落(プロセス・イノベーション)による競争に走る。(供給増<需要増となるようなプロダクト・イノベーションの減少)

  • そのような経営をおこなっている経営陣を監視すべき資本市場の反応としては、経営陣の交代を明確に訴えることは、普通株が幅広い株主に分散している中でマネジメント対案を提示することはコストメリットが合わず、株式売却による退出という形で緩やかな株価低下にはつながる。(意見を言わないエクイティガバナンス)

  • しかしながら、預貸ギャップを抱える銀行にとっては、人件費削減により安定キャッシュフローは見えているためファイナンスすることは可能であり、資金がつながる以上そのため当該企業の市場からの退出は進まず、価格低減による過当競争の構造が維持されてしまう。(デット・ガバナンスの不全)

  • 銀行間の貸し出し競争(オーバーバンキング)とゼロ金利政策の維持により、企業の金利負担は低いまま維持され、市場退出のプレッシャーは弱いまま残存する。(ゼロ金利政策の裏側)

  • そのような供給超過構造が10年以上維持され、民間需要減≒企業収益悪化による投資減+雇用報酬減による消費減+少子高齢化に伴う消費減、の中でGDP規模を維持するために政府支出が拡張され、結果として積み上がった債務が、長期金利を低く維持する政策へのインセンティブとなってしまう。(政府インセンティブの変化)

というようなデッドロック状態において、どこから変えるべき/変えられるのか。
・金融政策?
・財政政策?
・経済(ターゲット)政策?
・会社法制(含む倒産法制)?
・金融(資本/融資)市場?
・労働市場?

あと、上では十分に触れられなかったですが、少子高齢化、人口減少、女性活用、移民活用、あたりの人口問題も別途組み込んで考えてみたいですね。

3 Feb 2013

Financial Times MBA ranking 2013

FTのMBAランキング最新版が公表されていました。個人的には、FTのランキングが一番バランスが取れているような気がしております。概ね知っている(≒知り合いが行っている)ところは25位あたりまでですが、逆に言うとその辺りの友人知人の選択とランキングの齟齬が少ないです。

このブログで取り上げた記憶のある単年MBAを中心とした欧州系6校(LBS, Cambridge, Oxford, IMD, INSEAD, IE)だけをピックアップすると、
4位:London Business School(3年平均だと3位)
6位:INSEAD(同5位)
11位:IE Business School(同9位)
16位:Cambridge(同23位)
19位:IMD(同15位)
24位:Oxford(同24位)
となっており、上記のヨーロッパトップ校の中では唯一Cambridgeが順位を伸ばしています♪

全くの余談ですが、The Economistの直近のランキングは、私が世界ビジネススクール情勢を知らない可能性も高いですが、こんなに違うか?と評価方法を疑問に思うくらい違います。まあ、ランキングなんてrating agencyのようなもので、それを信じて高い買い物をするとエラい目にあったりするわけで、マスの傾向値として参考程度に眺めておいて、あくまで最後はファカルティやクラスメイトとの相性も含めた自分のガッツフィーリングに頼るのが正道だと思っています。