26 Nov 2011

The era of state capitalism/「機構資本主義」の時代

日経新聞の「キコウ資本主義」の記事(以下に引用)を読みましたが、PublicとPrivateを安易に分ける古い二分論にまだ依拠しているように思えます。世界各国はもっと柔軟に国民経済の向上へ向けて動いておりますし(参考:Financial Times site on state capitalism)、なによりそもそもフィクションとしての「民主主義たる国民国家」自体が、本質的には国民のために存在するはずですので、安易な原理主義に陥ることなくその時代と次代に生きる「人間」にとってよりその都度妥当な運用を模索し続けることが、各世代のリーダー達に求められる姿勢だと思います。

以下引用
「キコウ資本主義」の時代…日経新聞11月22日15面より
編集委員 西條都夫
官民ファンド、産業革新機構の朝倉陽保専務によると、米アップルが10月に発売した「アイフォーン4S」の最大の特徴はディスプレーだそうだ。液晶のドット密度が2割ほど増え、画面が見やすくなった。「現物を手に取ると、従来機種との差は歴然」という。
朝倉氏がスマホに詳しいのは、個人的興味だけではない。産業革新機構の幹部として、巨額を投じる液晶市場の動向に無関心でいられないのだ。気がつけば、日本の企業社会で「キコウ」の存在感が大きく膨らんでいる。
一つはこの産業革新機構。資本金こそ民間企業も拠出し、官民共同出資の体裁を整えたが、約1兆円ある投融資枠の9割がたは政府保証枠を使って借り入れる事実上の政府ファンドだ。近々政府保証枠の1兆円上積みが予定され、さらにパワーアップする。
そのなかの目玉案件が機構が2千億円を出資し、東芝など3社と共同で設立する液晶会社のジャパンディスプレイ。これが20年前なら「日本が官民一体で不公正競争を始めた」と通商摩擦のやり玉にあがったはずだが、今は問題視する空気さえない。それだけ日本勢の競争力が衰え、注目度が低下した裏返しであるといえる。
もう一つのポイントは官製ファンドなかりせば、再編が起きたかどうか大いにおぼつかないことだ。朝倉専務は「交渉は曲折を経たが、最後はまとまった。機構の出資する2千億円は長期のリスクマネー。今の日本にこうした資金の出し手は見あたらない」という。
公的なカネに頼らなければ再編もできないとは情けない話だが、それが業界の実態だろう。新会社の成功のハードルは高いものの、各社が個別バラバラに細々と事業を続けるよりはまだ展望が開けるかもしれない。
革新機構に続く2番目の注目「キコウ」は、東京電力を支援する原子力損害賠償支援機構だ。東電というブライドの塊のような会社に乗り込み、リストラの進捗や経営のあれこれに口を挟む。介入を嫌う東電側とは緊張が続いているが、最大のヤマ場は来年春。
東電が3月期決算で事故を起こした福島第一原発の廃炉費用を計上することになれば、自己資本が大きく痛み、機構による資本注入が不可避になる。「民間会社としてやっていく」と東電首脳は強調するが、それがかなうか、機構傘下の国有会社になるかせめぎ合いが続くだろう。
日本航空(JAL)の再建を手掛ける企業再生支援機構を含めて、一連の「キコウ」の存在感拡大は、企業の側のふがいなさ、自力で局面を打開できない閉塞と裏表の関係にある。
かつて不良債権を民間だけの手で処理できず、産業再生機構が登場したのと同じ構図だ。だが、いつまでも機構頼み、公的資金頼みでいいわけがない。企業が活力を取り戻し、「キコウ資本主義」に決別するのはいつの日だろうか。

23 Nov 2011

事業戦略と価値創造の関係/財務危機の基本構造(McKinsey Quarterlyより)

事業戦略と価値創造の関係がMcKinsey Quarterlyに端的にわかりやすくまとまっていたので備忘録的に翻訳しておきます。トップラインの成長(すなわち、市場を創造かある市場のシェアを拡大するということ)、あるいは投下資本に対するリターン率の向上を生じるのが、真によい戦略であり(逆に言えばそれらが戦略の目的変数)、真の意味での競争優位という捉え方はシンプルで参考になります。

引用)
The guiding principle of value creation is that companies create value by using capital they raise from investors to generate future cash flows at rates of return exceeding the cost of capital (the rate investors require as payment).The faster companies can increase their revenues and deploy more capital at attractive rates of return, the more value they create. The combination of growth and return on invested capital (ROIC) relative to its cost is what drives value. Companies can sustain strong growth and high returns on invested capital only if they have a well-defined competitive advantage. This is how competitive advantage, the core concept of business strategy, links to the guiding principle of value creation.
(意訳:会社が、投資家から調達した資本を使って、彼らが要求するところの資本費用を上回る将来キャッシュフローを生み出すことが価値創造の基本原則です。会社がより早く収益を増やし、より魅力的なリターン水準で資本投下できるほど、より多くの価値が創造されるため、成長(率)と資本コストに対する投下資本収益(ROIC)の組み合わせが価値を増やすドライバーとなります。会社が力強い成長と高い投下資本収益を維持できるのは、その会社がはっきりとした競争優位を持つときのみであり、こうやって事業戦略の中核コンセプトである競争優位は価値創造の基本原則と繋がります。)

あとは、財務危機の基本構造についての説明について、足の早い資金で(実は)流動性が低い資産に投資してしまったALM的な失敗としてこれまた参考になります。
引用)
In the past 30 years, the world has seen at least six financial crises that arose largely because companies and banks were financing illiquid assets with short-term debt...Equities are highly liquid because they trade on organized exchanges with many buyers and sellers for a relatively small number of securities. In contrast, there are many more debt securities than equities because there are often multiple debt instruments for each company and even more derivatives, many of which are not standardized. The result is a proliferation of small, illiquid credit markets.
(意訳:過去30年間において世界的に起こった少なくとも6回の財務危機は、主には企業や銀行が流動性の低い資産のファイナンスに短期資金を充てたことによるものでした・・・株式はきちんとした取引所で相対的に少数の証券に対して多くの買い手と売り手の間で取引がなされるため、流動性が高くなります。対照的に、通常はそれぞれの会社ごとに複数の債券があってさらに多くのデリバティブがありまたそれらの多くは標準化されていないため、株式以上に債務証券は数多くあることになり、その結果として小規模で流動性の低い債務市場が拡散することになります。)

Source: Why value value?

11 Nov 2011

国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウント(著:松田千恵子)

キャピタルマーケットの銀行・格付け機関といった主要プレイヤーの立場からJGB(日本国債)見てきた方によって書かれた、非常に分かりやすい入門書です。ニュース等でちゃんと日本国債関連の議論に付いて行っている人にとっては特に新しいものはないと思いますが、家計金融資産残高を公債残高を超える日は遠くない(この本の試算では2016年)、銀行が保有国債のデュレーションを短期化している、各種経済指標を保守的に見たシナリオ下では公債残高は増え続ける、デフレは財・工業製品を中心とした影響でありサービス価格は依然として高止まりしている、といった点を数字でわかりやすく表示しているのは参考になりました。

ただ、他の方も書いておりますが、タイトルも副題も内容とは乖離していてマーケティング上の都合で付けられたことが推測されるのが残念です。非常事態宣言でも3年以内の暴落についても何も記載はありません。

11/14追記)
結局のところ、JGBをじゃんじゃん発行しても消化できる市場があったがそれが徐々に厳しくなっていることを説明しているだけであって、本格的にタイトになったらどのようなことが起こっていくか、といったシナリオについては殆ど記載がないのが残念です。

しかしながら、何がどの順番で起こるかについてはこれまで専門家のいろいろな主張を見ましたが意見が割れているようですし、これだけグローバルな金融市場が成立した中での先進国の内国債をトリガーとしたデフォルト・デノミは経験がないので(つまりこれだけ金融資産を溜め込んで国債消化余力を持った国は珍しい)、正直なところ起こってみないと分からないというのが現状なのでしょう。

なお、より本格的に学ぶには以下の二冊がオススメです。
国家は破綻する――金融危機の800年
国家は破綻する――金融危機の800年

日本のソブリンリスク―国債デフォルトリスクと投資戦略
日本のソブリンリスク―国債デフォルトリスクと投資戦略

9 Nov 2011

ゾンビ企業を作り出すインセンティブ構造

日本では中小企業の退出が比較的少ないのについて、精神論的な話ではなく、事業的には負けており退出すべきなのになぜキャッシュが回って生き延びている企業を取り巻くステークホルダーのインセンティブ構造の仮設メモを残しておきます。これらをどう検証していくかは別途考えないといけないですね。経営者・株主・金融機関・従業員に加えて政治家(Regulator)を加えておきました。

経営者

  • 金銭的:金融機関に要求されて個人保証をしたり自宅を担保に入れていたりして倒産や事業譲渡などのトリガーがそのまま生活の破綻に繋がるのを避けたい
  • 金銭的:同時にマジョリティ株主であることが多く、資産が紙くずになるのを避けるために実務上の粉飾などを指示することもできる(強いリーダーシップを効かせられることの裏返しなので、必ずしも悪い状態ではないですが)
  • 精神的:「社長」としてのプライドを保ちたい、いい顔をしていたいので他社に買われて自分の居場所がなくなることを避けたい(僕が見てきた限り、大企業にも多い)
  • 制度的:監査役はカイシャとの利害関係者であり、チェック&バランスを効かせるインセンティブはない(OBあるいは顧問弁護士・税理士等でお金をもらっている立場など)

株主

  • プライド:一線を引いていても、創業者であると「自分の会社」という思いが強くて業績があまりに悪くなると介入して生き延びる方策を模索する(これは当たり前の行動かな)
  • 人間関係:経営陣や他の株主との人間関係の維持を重視して損切りをしない(家族や友人などの場合)

市場・制度

  • 株式の買い手を探しても二次市場が未成熟で仲介機関やリスクの取り手が少なく、また評価額が付かない
  • うまく売却価額がついても非上場株の譲渡税が20%と高くて、売るメリットが削減されるので売りたくならない

金融機関

  • 担当者:会計/財務についての専門家が少なく、粉飾的な怪しい数値にそもそも気づかない
  • 担当者:減点主義の評価方法の場合では、数年間の担当の間に問題を起こしてほしくないので少々数字が怪しくてもつなぎの資金を通してしまいたくなる
  • 組織:内部の貸出区分として正常先扱いしており、追加引当をする余裕が業績・自己資本ルール的にない
  • 組織:事実上のDIP状態にあっても、メインとしてガバナンスを効かせるだけの余剰人員やスキルがない

従業員

  • 個人:カイシャを守るために「阿吽の呼吸」で言われずとも数字を作ってしまう(カネボウとかこのケースですね
  • 労働市場:売れるスキルやいざというときの社外ネットワークを持っていない、地方で他の雇用が少ないなどで事実上転職できない場合は、給料カットや粉飾でも命令を聞かざるを得ない
  • 評価制度:実態がなくても経営陣が中身を見ずに作られた数字で評価されてしまう(売上だけで評価される営業、最終的に利益を作ることで評価される経理、など)


政治家(regulator)

  • 選挙においてお世話になっている経緯があると、中小事業者にマイナスになるような政策は通しにくい
  • さらに支援者が中小企業の社長であることが多いため、彼らを保護するための政策(例、リーマン・ショック後の金利支払の減免、手を変え品を変えた公共事業復活)を導入させて「実績」をアピールしたい


7 Nov 2011

The Economist: Should Greece leave the euro zone and return to the drachma?

Question: Should Greece leave the euro zone and return to the drachma?

My Answer: Yes. (as of Nov 11 0:30 am, 49% YES v.s. 51% NO)

Whether Greece leave the euro zone or not, it's likely that Greece would end up defaulting its debt due to the poor management of its government. And if Greece is kept in the euro zone, this kind of turmoil could happen again due to the same currency over totally different economic areas.

Instead, leaving the euro zone would give Greece the devalued drachma after all, which could make its tourism industry, which I assume as one of the few competitive industries there, attractive to foreign visitors; at least its default could never affect the euro more than this time. Thus I believe Greece should leave it.

Another way to see it from FT, but I think his scenario seems less likely and backed up by no actual figures.
Greek default within the euro is the only real option

4 Nov 2011

同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録(著:森 功)

帯にあるように「同和団体のドン」小西邦彦と「汚れ役」に徹した幹部行員(三和銀行)の関係から眺めるバブルの一面です。

銀行からノンバンクを経由した不動産投資、それを利用してのし上がる、同時に銀行に利用されたケースは大小たくさんあるのでしょうが、このケースは極めて典型的でもありそこに切り込んだこの本はジャーナリズムとして非常に優れたものだと思います。

全然違う側面から同和団体を取り上げた「放送禁止歌」と合わせて読んで感じたのは、差別自体を直接に声高に悪用した人がいた初期から時間が経つと、むしろそのことにより何となくアンタッチャブルになるこの国の「空気」を周りがうまく利用し始める(思考放棄なり落とし所なりのロジックとしてXXXが言うのだから・・・というような)という構造が、「ワシはそんなに悪やろうか。警察の調書を見ると、銀行の連中はみなワシに脅されて、仕方のう取引をした、言うとるんや」という弱音に端的に現れている気がしてなりません。