31 May 2011

プロフェッショナルコンサルティング(著:波頭亮×冨山和彦)

波頭 亮,冨山 和彦
東洋経済新報社
発売日:2011-05-27

マッキンゼーを卒業後もXEEDを設立して戦略コンサルティングというプロフェッションを続けている波頭さんと、BCG、コーポレイトディレクション、産業再生機構、経営共創基盤と多様な立場からコンサルティングを行ってきた二人による、主には若手コンサルタントと戦略コンサルティングを志向する方々向けに読まれるべき対談集です。

普通のセミナーでは聞けないような、リアリティのある経営者の視点からの戦略コンサルティング業界のリアリティが語られるとともに、この業界でキャリアを積もうとしている人間への様々な示唆があり、ある程度経験を積んだところで一歩立ち止まって考えるのには良い本です。ただもちろん、お二人それぞれの考えを理解するには、波頭さんの言う論理的思考の勘所(独立と相関の区別、次元の統一、因果の強さ)や冨山さんのゲゼルシャフトとゲマインシャフト、合理と情理などの相克とアウフヘーベンについての説明は軽く、個別の著書を読む必要があります。

瑣末ですが、直観で動く経営者も因果律の把握は必要、歴史の正史の矛盾を埋める鬼(裏史)による立体的な理解、情理にぶつかった時こそ論理的思考と想像を諦めてはいけない、年功序列を廃止することで終身雇用が守れる、といった議論のくだりが特に面白かったです。

26 May 2011

ドキュメント東京電力企画室(著:田原総一朗)

今では絶版となっているこの本は、1981年時点の「生存の契約」(文藝春秋刊)を元にした文庫ですが、それ以降の大きな変化を生めなかった日本のエネルギー政策の背景が、小説のように読み解ける優れたルポになっています。

第二次大戦時の統制経済・国家管理というトラウマを回避すべくGHQのバックアップすら活用して九社体制を確立し、通商産業省のエネルギー支配を回避するために「ファウスト的契約」と認識しながらあえて原子力推進のイニシアチブを民間主導で取ります。

しかし、この時代までにあった明らかな対国家への距離感・緊張感は、オイルショック後の本格的な石油値上がりにより燃費負担が重くなって、結局は電気料金の認可を握る通商産業省の言う事を聞かざるを得なくなり、融和策を取るようになったところで薄まっていきます。

そこから、日本のエネルギー政策は「なあなあ」になってしまったのではないでしょうか。その後は、数年スパンの思いつきで大旗を振るう官僚を諌めずに、究極のところ現場と雇用を握っている民間は面従腹背で結局言う事を聞くふりをして換骨奪胎することの繰り返しで数十年を過ごしてしまったのではないかと、1981年に書かれたこの本を2011年の現在から読み返すと思えるのです


余談ですが、オイルショック時に実は石油輸入量は減っておらず、実は石油を支配するメジャーショックだった、というエピソードは考えさせられるものでした。見通しや予測ばかりでなく、実際の数字を確認しないで踊らされたよい例だと思います。こちらのグラフからは、中東依存度がオイルショック前後で大きく変化していないことがはっきりと分かります。

23 May 2011

君主論(著:マキャヴェッリ)

マキアヴェリ
講談社
発売日:2004-12-11

「マキャヴェリズム」という言葉のイメージになっている暴力礼賛的な論ではなく、乱世の16世紀において、ローマ帝国を中心とした過去に滅んだ国々と君主をケース・スタディとして、君主を成立させる要件、君主の成立の仕方による違い、君主が統治を行っていく上で必要な要素と必ずしも必要ではない要素を冷静に論じています。つまり、観念論ではなく具体的な行動や制度として君主を議論しています。

そこで論じられているのは手段としての暴力に対する冷静な評価であり、あくまで安定した支配を成立させるためには、という目的論から、軍事や君主の性質、制度論も含めて君主が取るべき行動を、観念論ではなく具体的な行動や制度として議論しており、この示唆は現代の組織統治(特に危機的環境下の)においても極めて参考になります。

マキャヴェッリは冷徹な現実主義者に徹したわけではなく、草稿を書き上げたときは彼は四十半ばだったようですが、まだ見ぬ統一イタリアへの思いを、最終26章にてこの本を献上する先の読み手、将来的かつ希望的なイタリアの君主足りえる者、への呼びかけで終えるといった情熱ものぞかせています。

政治学者であり東京大学法学部学長を務めた佐々木毅が各章ごとに簡単な解説コメントを追加しているのも、理解の補助線になります。その解説で、この君主論はローマ共和制を論じた同じくマキャヴェッリの「リヴィウス論」を参照にすることでより立体的な理解が進むことが分かりました。

11 May 2011

JGB CDS

日本国債のCDSが大震災前の水準にもどりつつあり、3年スパンでみるとじわりと上がっているんですね。

現時点で、5年債CDSが81.22bp(5年債の利率0.43%)、10年債CDSが112.61bp(10年債の利率1.13%)なので、国債を買い手のほとんどはヘッジしておらず、デフォルトを期待したごく一部ヘッジファンド等の買いがスプレッドを引き上げているというような状態でしょう。

ちなみにギリシャ国債のCDSは1000bpを越えている様子。。。(追記:6/3のReuters記事では1380bpでした。)

JGB Yield
JGB 5Y CDS
JGB 10Y CDS